藍染の染液をつくることを「藍を建てる」と言います。
天然藍灰汁醗酵建ては日本の藍染の黄金期である江戸時代を中心に行われていた方法です。
化学薬品を一切使わず、自然界からとれる原料のみを用いるため、
布やそれを身につける私たちだけでなく、環境にとっても非常に優しい染色方法なのです。
蒅と灰汁の他に、日本酒、ふすま(小麦の外皮)、石灰を使用し
徐々にかさを上げながら液を発酵させていきます。
建てはじめてから1週間ほどで、ようやく布を染められる状態になります。
【藍染の原料・蒅(すくも)】
蒅とは、蓼藍(たであい)という植物の葉を乾燥させ、さらに発酵させた状態のものです。
発酵させることにより、蓼藍の葉の中に含まれるインジカンという成分を藍染に必要な色素インジゴに
変化させているのです。
この蒅は、藍師さんという職人のもと約1年という長い時間と惜しみない手間をかけて作られています。
壺草苑で使用する蒅は、徳島の藍師・新居修さんのもとで作られたものです。
毎年2月頃、わらのかますに入った蒅が工房に届きます。
藍染の現状
現在、灰汁醗酵建ての藍染は全体の数%程度と言われています。
近年では、石油を原料に化学的に藍染と同じような色素を合成した「インディゴ」を使用し、
苛性ソーダやハイドロなどの薬品を用いて作る液で染められたものが多くを占めます。
この合成藍は、灰汁醗酵建てとはくらべられないほど手間もコストもかからず、1〜2度の染色で容易に濃い色を染めることができてしまいます。
また蒅を使用していても、その他の材料に苛性ソーダなどの化学薬品を用いる化学建てという方法や、蒅とインディゴを混ぜて使う割建てという方法もあります。
そしてそれらの多くが、本藍や正藍などとうたわれ市場に出回っているのが現状です。
壺草苑が灰汁醗酵建てを続ける理由
それは、天然藍だけにしかない優しさと美しさがあるからです。
私たち職人は毎日素手で染めていますが、体には全くの無害です。
むしろ、染め上がったものには殺菌・抗菌作用やUVカット効果などがあるとされており、身につける人を優しく守ってくれます。
また、使い終わった液は畑に肥料として撒き、私たちはいつもそこで育った野菜の恩恵を受けています。この様な循環型の染め物は 世界中探しても類を見ません。
そして何より、色が違います。
染め重ねれば重ねるほど赤みを帯び輝きを増した藍の色は、単純に「青」や「紺」という言葉では表現しつくせません。
化学染料や絵の具をどのように配合しても、決して出すことのできない色です。
この、心に澄み渡るような美しい色に出会うためには、果てしなく同じ作業の繰り返し…。
人間の利己に流されず、真面目に藍と向き合ったとき初めてその姿を見せてくれます。